【作品設定小話】
一年に一度、東の林の間できらめくお祭りが開かれる。
揺らめく光に導かれて、一匹の狐は胸を躍らせて歩いていた。
いつもよりも早めに明けた梅雨。
昨年あった小さな泉は見る影もなくなってしまったり、
川の水も減ったりと今年の森は違う姿を見せている。
揺らめく蜃気楼に向かって足を進めていると、
水の気配がない場所から、パシャリという小さな水音が聞こえ、狐は足を止める。
耳を澄ますと、少しだけ時間をあけて、もう一度パシャリと小さな水音が鳴った。
音が鳴っている方に視線を向けると、
小さな小さな水溜りに、きらめく赤い宝石のような姿が見えた。
そろりそろりと近づいてみれば
水溜りの中で動けなくなっている一匹の金魚が見える。
「金魚さん、こんなところでどうしたの?」
突然声をかけられた金魚は、目を真ん丸にして狐と目を合わせる。
聞けば、少し前に降った雨に流され、
この水溜りに取り残されてしまったとのこと。
小さな水溜りでうなだれる金魚に、狐は優しく声をかけた。
「心配しないで、大丈夫だよ!」
狐はそう伝えると、くるりくるりと宙を舞って、パシャリと体を水に変化させた。
水の身体の背で、金魚をすくいあげる。
久しぶりに体を大きく包む冷たい水に、金魚はたいそう喜び、
みるみる元気になった。
2匹は仲良く、蜃気楼へと向かっていく。
まほろのお祭りに心躍らせながら。
狐の名前は、「つゆぎつね」
梅雨の時期に生まれ、水に縁を結ばれた狐。
二匹の物語は、まだ始まったばかり。
【作品説明】
今年は『金魚と狐』を題材として作品を制作いたしました。
金運を上げると言われる金魚と、朝の光を浴びて輝く朝つゆをイメージし、狐を水に見立て、狐の体の上を泳ぐ金魚を表現できたらという思いから生まれた作品です。
水の中をゆらゆらと泳ぐ金魚はとても幻想的で可愛らしく、綺麗です。
金魚の小さな姿に合わせて、狐は子狐をイメージ。
子狐らしさを出せるよう、頭のサイズを大きめに、目を大きく開けているデザインにしました。
金魚の質感と狐の質感の違いを是非楽しんでいただけたらと思います。
パーツ数は、今まで作ってきた中で一番多い作品となっています。
狐の尻尾の形は、雫と水の流れをイメージし、前から見ても後ろから見ても楽しめる形になっています。
また、狐本体と金魚の下にある水表現に使っている青色は、全部で5種類のブルー系塗料を重ね、グラデーションをかけました。
微妙な青色の違いも是非お楽しみください。